大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)23号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第二号証及び甲第四号証によれば、本願発明は、一般に容器に使用するプラスチツク製真空密封キヤツプに関するもので(本願明細書第一頁第五行及び第六行)、空気の存在で腐敗又は変質を起こし易い物質を容器に入れてかなり長い期間貯蔵するためには、多くの場合、これら容器に比較的高真空を加え、空気の容器内侵入を阻止するためのキヤツプ又はカバーのような適当な封止体で容器を密封することが必要であり、このような真空密封容器について、有効な密封を行うためには容器縁部とキヤツプ間に非常に正確な嵌合が要求されるところ、特にガラスビン及びガラス製広口ビンにおけるプラスチツク製キヤツプについて、従来のガラス容器製造に使用される成形技術では、同じ成形型で容器を作つても容器によつて首の壁厚に広範囲な変動が発生する、したがつて、これに使用するキヤツプとの間で適正密封を得るためにはビン毎の内径、すなわち首の壁厚を正確に成形しなければならなかつた、また、容器の取扱い間のガラスの破損で容器の口の縁部に無数の不規則形状が発生し、このためキヤツプとの正確な嵌合が不可能となり、容器の再使用ができなくなるという欠点があつた(同第二頁第七行ないし第三頁第三行)との知見に基づき、本願発明は、種々の壁厚及び破損のような不規則形状を有するガラス容器に確実かつ信頼性のある真空密封が行われるプラスチツク製キヤツプを提供することを目的として(同第三頁第九行ないし第一二行)、特許請求の範囲(前記本願発明の要旨)記載のとおりの構成を採用したことが認められる。

(二) 一方、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例には、第一引用例記載のものは、「ビン又は同様物の口の端壁と協働させるための一つ又はそれ以上のシーリングフランジをキヤツプの頂面から突出させた形式のねじ込みキヤツプに関連するもの(第一欄第三一行ないし第三四行)。」であり、「この形式のねじ込みキヤツプは、それをビンにねじ込んだあと及びその後のある期間内は効果的な気密能力を有している。しかし、このねじ込みキヤツプをつけたビンをある期間貯蔵しておくと、キヤツプは気密性を低下する傾向がある(第一欄第三五行ないし第三九行)」という欠点があつたので、これを除くため、「シーリングフランジ又は追加のフランジをキヤツプの壁に非常に近接して延ばして、該フランジをビン又は同様物の口の外壁とかみ合わさせ、かつ、キヤツプの壁とかみ合わさせることにより、ねじ込まれたキヤツプを弾性的に固定したならば、キヤツプをかなり良好にビンに固定させ得ること(第一欄第四三行ないし第四九行)」を見出し、特許請求の範囲第1項記載の「ビン又は同様物のためのねじ込みキヤツプであつて、頂壁;ビン又は同様物の首の外部のネジに合つたネジを有する連続側壁;頂壁から下向きに突出する少なくとも一つのシーリングフランジ、該シーリングフランジはキヤツプをビンに完全にねじ込んだときにビン又は同様物の開口を形成する首の縁に係合してそこにシール効果を生ぜしめる;並びに、頂壁から下向きに突出するロツクフランジ、該ロツクフランジは、ねじ込みキヤツプを首に完全にねじ込んだときに、側壁とねじ込みキヤツプがはめられているビンの首との間に延びるように、かつ、その間にクサビ状に押し込まれてビンの首に半径方向の力を発生するように、位置されている、から成ることを特徴とするネジ込みキヤツプ(第二欄第三三行ないし第四五行)」との構成を採用したものであることが認められる。

2 一致点の認定について

(一) 第一引用例記載のものは、ねじ込みキヤツプの壁にフランジを設けて、該フランジをビンの口の外壁とかみ合わせ、かつ、キヤツプの壁ともかみ合わせキヤツプを弾性的に固定することによつて、キヤツプの気密性の保持を図つたものであることは前記1(二)で認定したとおりである。

そして、前掲甲第五号証によれば、第一引用例には、前記のとおり「若し本発明に従つて、シーリングフランジ又は追加のフランジをキヤツプの壁に非常に近接して延ばして、該フランジをビン又は同様物の口の外壁とかみ合わさせ且つ、キヤツプの壁とかみ合わさせることにより、ねじ込まれたキヤツプを弾性的に固定させたならば、キヤツプを可成り良好にビンに固定させ得ることが見出された(第一欄第四三行ないし第四九行)。」との記載があるほか、「キヤツプの頂面には、キヤツプと同心の薄いシーリングフランジ2が形成されている。このシーリングフランジの目的は、ビン又は同様物(図示せず)の口の内側端壁に係合することによつて密封を生ぜしめることにある(第一欄第六四行ないし第七〇行)。」「ビン又は同様物のためのねじ込みキヤツプであつて、(中略)頂壁から下向きに突出するロツクフランジ、該ロツクフランジは、ねじ込みキヤツプを首に完全にねじ込んだときに、側壁とねじ込みキヤツプがはめられているビンの首との間に延びるように、かつ、その間にクサビ状に押し込まれてビンの首に半径方向の力を発生するように、位置されている(第二欄第三三行ないし第四五行)」と記載されていることが認められる。

右事実からすると、第一引用例記載のもののロツクフランジ4は、キヤツプの側壁に非常に近接して設けられ、キヤツプを容器にねじ込んだとき、キヤツプの環状側壁及び容器の口の外壁の両面にわたつて圧接され、その外面はキヤツプの環状側壁と広い範囲で接触し、またその内面は容器の口の外壁と幅をもつた帯状の接触をして、ねじ込みキヤツプの弾性的固定を図つているものであり、容器の口の内側端壁に係合しているシーリングフランジ2と共に、容器の密封機能(シーリング機能)を果しているものであると認められる。そして、シーリングフランジ2及びロツクフランジ4がシーリング機能を果たしているということは、これらが、容器周辺の内側及び外側の不規則的形状に適応して連続的に密封接触しているものと推認できる。

してみると、ロツクフランジ4は、その内面が容器の口の外壁と幅をもつた帯状の接触をするという意味で「容器壁の外側リム縁と線接触をしており」かつ、「シーリングフランジ2と共に、容器周辺の内側及び外側の不規則的形状に適応して連続的に密封接触している」との技術的事項が第一引用例に記載されていることは認められるが、右ロツクフランジ4はキヤツプを容器に取付けたとき、容器壁の外側リム縁にのみ接触するというものではなく、キヤツプ環状側壁及び容器の口の外壁の両面にわたつて接触しているものであることが明らかである。

したがつて、第一引用例には「ロツクフランジ4は、キヤツプを容器に取付けたとき、キヤツプ環状側壁と接触しないように形成され」「ロツクフランジ4は、キヤツプを取付けた容器の外壁のリム縁にのみ接触する」との技術的事項が記載されているとした審決の認定には誤りがあるといわざるを得ない。

一方、本願発明における第二環状フランジ30は、キヤツプを容器に取付けたとき、キヤツプ環状側壁と接触しないよう形成され、容器の外側のリム縁にのみ接触するよう構成され、第一環状フランジ28と相互に協力して容器を効果的に密封し、さらにポケツト内に吸引効果を生じ、容器の再密封を可能とさせるものであることは前記1(一)で認定したとおりである。

そうすると、第一引用例記載のもののロツクフランジ4と本願発明における第二環状フランジ30とは、キヤツプを容器に取付けたとき、前者はキヤツプ側壁と容器の口の外壁にクサビ状に押し込まれキヤツプ環状側壁及び容器の口の外壁との両面に接触するものであるのに対して、後者は容器の外側のリム縁にのみ接触する点において構成上相違するものであるといわなければならない。

(二) そして、第一引用例記載のもののロツクフランジ4は、右のようにクサビ状に押し込まれるので、一旦クサビ状に押し込まれ長期間にわたつて圧縮状態におかれると時間の経過とともに冷間流動によつてキヤツプのねじ戻りが生じて次第に気密性を低下させ、更には凹凸や捩れなどのような永久歪が生じることは技術上自明のことである。かくては、容器の再密封に当つて、当初はシーリングフランジ2と協力して生じていた吸引効果が発生せず、この働きによる再密封を期待し得ないこととなる。

これに対して、本願発明における第二環状フランジ30は、前記認定のとおり、キヤツプを容器に取付けたとき、容器の外側リム縁と接触するのみであるから、第一引用例記載のもののようなフランジの圧縮による永久歪が生ずることはなく、したがつて吸引効果による再密封機能の減少はなく、また、キヤツプのねじ戻りによる気密性の喪失という事態も生じないことが認められる。被告は、第一引用例記載のものは、ロツクフランジ4を設けたことにより従来のねじ込みキヤツプよりもねじ戻しのモーメントが七五%も大きくなつているから、ねじ戻りによつて気密性を失うことはない旨主張するが、たとえねじ戻しのモーメントがそのように大きくなつているとしても、前記認定したとおり、第一引用例記載のもののロツクフランジ4は、クサビ状に押込まれて長期間にわたり圧縮状態におかれていることから、永久歪を生じ、このため時間の経過とともに徐徐に弾性を弱め、ロツク機能が低下してねじ戻りが生じ、気密の保持が図られなくなるものであるから、被告の右主張は失当である。

(三) そうすれば、本願発明の第二環状フランジ30は、第一引用例記載のもののロツクフランジ4とはその構成を異にし、その採用に伴つて得られる効果も格別の差異を生ずるものであるから、本願発明の第二環状フランジ30は第一引用例記載のもののロツクフランジ4に相当するとした審決の認定は誤りというべきである。

3 以上のとおり、審決は、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点の認定を誤つたものであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

容器の密封に使用する分離可能なプラスチツク製キヤツプ10で、該キヤツプが取付けられる容器34、36、38の口の上方に広がりかつこれを蔽う上壁12、該上壁12と一体に形成され、かつ該上壁の周辺から下向きに延びる環状側壁14、前記上壁12に一体に形成され、かつ該上壁から下向きに延びる第一環状フランジ28で、該第一フランジ28は内面64と外面31を有し、該外面31はキヤツプ上壁12の面と約四五度傾斜し、また該第一フランジ28はキヤツプ上壁12の面から十分の長さ下方に延び出し、この外面31が容器壁の内側リム縁42、47に接触し、該第一フランジ28の外面31の前記傾斜のため該外面は前記リム縁42、47と線接触する第一環状フランジ;前記キヤツプ上壁12と一体に形成され、かつ該上壁から下向きに延びる第二環状フランジ30で、該第二フランジ30は前記第一フランジとは独立し、かつこれと同軸でこれから一定距離外壁に離れた位置、かつキヤツプを容器に取付けた時、キヤツプ環状側壁14と接触しないように該側壁とは同心であるがこれから離れた位置に形成され、更に前記第二環状フランジ30は内面33と外面66を有し、該第二フランジはキヤツプ上壁12の面から十分の長さ下方に延び出し、該第二フランジの内面33は容器壁の外側リム縁44、48と接触し、該第二フランジの内面33は前記リム縁44、48と線接触する第二環状フランジ30を含み、前記第一及び第二環状フランジ28、30はそれぞれキヤツプ上壁12との結合位置に基部を有し、これらの両基部は十分の距離離れているため、キヤツプを取付けた容器の内側と外側のリム縁42、47、54、44、48にのみ接触し、前記第一及び第二フランジ28、30の外面31と内面33はそれぞれ、キヤツプ10を容器壁に取付けた時ポケツト46、50、56を形成するように相互に離れ、かつ容器壁に対して傾斜し、前記第二フランジ30の内面33はキヤツプ上壁12の面に対して約八〇度傾斜し、前記の両フランジ28、30はほぼ平行な内面64、31と外面33、66とを有し、又前記第一及び第二フランジ28、30は薄肉で可撓性を有し、容器34、36、38周辺の内側及び外側リム縁42、47、54、44、48の不規則的形状に適応して連続的に密封接触し、前記ポケツト46、50、56は壁の厚さ不同性、及び不規則的形状の縁部を有する容器を効果的に密封し、更に前記両フランジ28、30は相互に協力して前記ポケツト46、50、56内に吸引効果を生じ、該キヤツプ10の使用で容器の再密封が行われることを特徴とするプラスチツク製真空密封キヤツプ。

(別紙図面(一)参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

(以下省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!